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相続、遺言、借地・借家や中小企業の事業承継に特に関心を持っている大阪の司法書士です。業務の中で感じたこと、気付いたことの情報を発信します。

不動産登記

離婚とマイホームと住宅ローン(2)

住宅ローン負担付きマイホームに住む夫婦が離婚する場合の、そのローンとマイホームの処理については、解決困難な様々の問題があります。前回は、連帯保証人の問題でした。今回は、財産分与の問題について検討してみましょう。


【妻が家をもらうというのが、本当に良いのか】

離婚に際しての家の扱いについては、妻が譲り受けて住み続けることを望まれるケースが、少なくありません。しかし夫・妻の双方にとって、それが本当に良いことなのか、必ずしもそれが良いとは言えないのではないか、と思われることがあります。

離婚すれば、夫婦は他人同士です(元から他人ですが)。

他人が借金で買った家を、その借金付き、抵当付きで譲り受ける(譲り渡す)ことの意味を、整理して考えてみる必要がありそうです。財産分与の目的は、離婚によって赤の他人となった夫婦の財産関係を清算することであるはずです。財産分与の方法が不適切であるとき、その清算目的を達することができません。


【財産分与のパターン】

ローン付マイホームの財産分与のパターンをいくつかに分けて、それぞれの問題点を見てみます。

(離婚前) 夫所有/夫婦居住/夫ローン返済

(ア) 夫所有維持/夫居住/夫ローン返済(家に関しては、妻に財産分与しないパターン)
 妻が新たな住居を確保できる限りは、ローンの返済に関して、最も問題が生じ難いパターンです。このパターンでは、家・ローンについての清算が離婚時に完了します。夫が返済を滞らせることがあっても、妻の住まいは直接の影響を受けません。夫にしても、自身の住まいのための支払いですから、がんばって返済しようという動機が働きます。

(イ) 夫所有維持/妻居住/夫ローン返済(居住の利益のみを妻へ財産分与するパターン)
 離婚した夫の返済を妻がコントロールするのは極めて難しく、夫が返済を滞らせたときは、担保権の実行(競売)により、妻は住居を失います。競売を避けるために妻が代わって返済するにしても、妻が延滞の事実を知ることとなるのは相当時間を経過してからが通常であり、少なくない額の遅延利息の負担が加わります。

(ウ) 夫所有維持/妻居住/妻ローン返済(居住の利益と共に、ローン残債を履行引受の方法により妻へ財産分与するパターン)
 妻が自分で返済をコントロールすることにより、「知らぬ間に競売にかけられる」という事態を避けられます。しかし、ローンを肩代わりするのに、家が自分の物にならないのは、妻が納得し難いでしょう。
 逆に夫の立場からすると、知らぬ間に遅延利息が発生するなどにより、自分のコントロールが効かないところで増大した負担を強いられる恐れがあります。また、再婚後に新たな住宅を購入しようとするとき、ダブルローンとなって、住宅ローンの利用を妨げられます。

(エ) 妻へ譲渡/妻居住/妻ローン返済(家に関しては、全てを妻に財産分与するパターン)
 a) 金融機関の承認なし(ローン残債を履行引受の方法により妻へ財産分与)
 所有者、居住者及びローン債務者が一応は一致していますので、それらに不一致がある場合の不都合は少ないでしょう。しかしやはり、例えば夫が破産したときには、妻の意に反して競売されてしまう恐れがあります。夫の立場から見ると、妻が返済を滞らせたときには、対外的には自身のローン事故として扱われます。
 また、それ以前の問題として、ローン金融機関の承認を得ることなく所有権を移転すると、ローンの一括繰り上げ返済を求められることになります。通常、次のbパターンによる債務引受けがなされないままに、所有権の移転のみを金融機関が承認することはありません。

 b) 金融機関の承認あり(ローン残債を債務引受の方法により妻へ財産分与するパターン)
 金融機関の承認を得て、債務者を正式に妻へ変更しておけば、所有者となった妻が返済についても完全にコントロールできます。一括繰り上げ返済を求められるという問題も、生じません。夫は、家に関する権利を失う代わりに、対金融機関の関係においても返済義務を免れます。
 債務引受について金融機関の承認を得ることができるのは、妻に一定の安定収入があるなど、金融機関が定める条件を充たしている場合に限られます。

(オ)妻へ譲渡/妻居住/夫ローン返済(夫のローン返済負担はそのままに、所有権と共に居住の利益を妻へ財産分与するパターン)
 前記イのパターンとほぼ同じ問題があります。それに加えて、金融機関からローン残債の一括繰り上げ返済を求められます。
 また夫の立場からは、所有を失うのにローンを負担し続けなければならないことについて、承服し難いことがあるでしょう。

以上の通り、「ローンとマイホームを清算する」という意味では、(ア)又は(エ)b)を除いて、何らかの問題が残ります。


【ローン完済後に所有権を移転する】

前記(エ)a)又は(オ)のパターンを選択する場合に、ローンの一括返済を金融機関から求められることを避けるために、ローン完済後に所有権を妻へ移転してはどうか、という考え方があります。そしてその場合、夫が第三者へ売却等するのを防ぐために、妻を権利者とする所有権移転(請求権)仮登記を付けておくというのです。この方法を採用する場合、次の諸点に留意が必要です。

1.所有権移転(登記)しなくとも、ローン一括返済義務の生じることがある。
住宅ローンは、債務者が自ら居住する住まいを購入するための融資です。妻子のみが居住することについて金融機関の承諾を得ていなければ、所有権移転(登記)していなくとも、一括返済義務が生じます。

2.仮登記原因は、慎重に選択する。
一括りに仮登記といっても、「現在既に所有権は移転しているが、権利書等の必要書類を用意できない等の事情があるためにしておく」いわゆる1号仮登記と、「将来において取得する所有権を予め確保しておくためにしておく」いわゆる2号仮登記との2種類に区別されます。
『財産分与』、『代物弁済』、『売買』、『贈与』等は1号仮登記の原因で、仮登記であっても所有権それ自体は既に移転しているのですから、「ローン完済後の所有権移転」に該当しません。
そこで、『条件付財産分与』、『代物弁済予約』、『条件付売買』、『贈与予約』等を原因として2号仮登記をしておくことが考えらえます。これらの場合には、将来において所有権が移転しますが、その所有権移転時における法律関係、課税関係はそれぞれの原因別に異なりますから、考え方を整理して慎重に選択しなければなりません。

3.競売によって権利を失うことは、防げない。
住宅ローンで購入した家には、例外なく、住宅ローン債務を担保するための抵当権が設定されています。抵当権の設定登記よりも後に付けられた仮登記の権利は、抵当権に劣後します。つまり、抵当権の実行として競売にかけられた場合には、仮登記された権利は吹き飛ばされてしまいます。

4.仮登記を本登記にする際には、夫の協力が必要。
仮登記はあくまでも仮の登記であって、将来において所有権移転の効力が生じたときに、その本登記をするためには、改めて夫の協力が必要になります。スムーズに協力を得ることができれば良いのですが、不確実要素を想定しておかなければなりません。例えば、夫が再婚して本登記時点では死亡している場合、その相続人である再婚相手や再婚後に出生した子の協力を得られるかどうか、という問題です。

5.『所有権を将来取得する権利』と『家に住む権利』とは、イコールではない。
ローン完済後に所有権が移転するまでは、夫に所有権があります。仮登記によって売却等を防ぐといっても、それは事実上の効果であって、夫の処分権を法律上失わせるものではありません。仮登記がされていることを承知で購入する者が現れた場合には、その者から家の明渡しを求められることも有り得ます。『ローン完済後に所有権を取得する権利』と『所有権取得以前において家に住む権利』とは、イコールではないのです。


今回は、以上です。
引き続いて次回、夫が所有権を維持したまま妻子が居住を続ける方法(居住利益の財産分与)について、検討してみます。

離婚とマイホームと住宅ローン(1)

離婚に伴う財産分与を行うに際して、マイホームの扱いには頭の痛い問題が付きまといます。(離婚そのものが頭の痛い問題ですが。)
とりわけても、住宅ローンの負担が付いている場合、第三者である金融機関との関係を無視することができないので、悩みが多くなります。一つの典型的な事案を想定して、その解決策を検討してみます。

【設例】

二人の幼子を持つ夫Aと妻Bは、結婚7年目にして離婚することとなった。
夫妻は現在、3年前に購入したA単独名義のマイホームに住んでいる。
マイホームの取得費用には、Aを債務者とする住宅ローンの借入金を充てた。
購入当時、住宅ローンを利用するのにAの収入のみでは不足したため、Bの収入を合算した。
Bは、マイホーム購入後に仕事を辞め、現在は育児に専念している。
Aが家を出て、Bが子と共に残ることとなったが、Bは、将来の長きにわたって安定的な居住を確保できるのか、不安を感じている。できれば、財産分与としてAからマイホームを譲り受けたいと考えている。
Bの不安を解消するには、どのような方策が考えられるか?


【離婚後のマイホームには、誰が住むか】

一般的には夫妻のいずれかが家を出て、他方が残ることになりますが、どちらかというと、妻が子と共に残ることが多いようです。それには、次のような事情が理由として考えられます。
・ 子の教育環境や友人関係等を変えたくない。
・ 住まい及びその地域への密着度は、家にいる時間が長い者の方が強い。
・ 複数人が同居するためには、その人数に応じた広さの住空間を確保したい。
・ 安定収入が無い主婦が賃貸住宅に入居するのは、困難。
要するに、夫の方が身軽であることが多いのでしょう。

もっともこれは、夫が家に残るのが例外的だとか、妻子が残る方が良いのだという意味では、決してありません。事情によっては、後述する通り、むしろ夫が家に残る方が良いことがあります。


【連帯保証人の問題】

次の場合には、夫婦の一方が住宅ローン債務者となるとき、ほぼ確実に、他方が連帯保証人となることを金融機関から求められます。
・ 住宅ローンの収入要件を充たすため、夫婦の収入を合算する。
・ マイホームを夫婦の共有名義とする。
本設例のA・B夫妻も、夫婦の収入を合算して借り入れたため、妻Bが夫Aの連帯保証人になっています。

連帯保証契約は、連帯保証人が金融機関に対して、借入者本人の返済が滞ったときには返済を肩代わりすることを約束するものです。金融機関の承諾を得ることなく債務者側の一方的な事情によって、「連帯保証人を降りる」ということは出来ません。つまり、夫Aの連帯保証人となった妻Bは、金融機関の承諾を得て連帯保証人を降りておかないと、離婚後においても、ローン返済の負担を強いられるリスクを負います。

ここで留意すべきは、離婚は夫婦間の問題だけれども、ローンの返済については金融機関との間の問題であることです。夫がローンの返済を続けることが夫婦間では約束されていても、その約束を盾にして、金融機関に対する連帯保証人としての責任を妻が拒むことは出来ません。

同様の問題は、妻の親族が夫の連帯保証人になっている場合にも起こります。


【連帯保証人を降りるには】

他の者が連帯保証人となって交替することにより、妻Bは、連帯保証人を降りることができます。しかし先にも述べましたが、これには債権者である金融機関の承諾が必要です。金融機関は通常、新たな連帯保証人となる人物に十分な資力がなければ、これを承諾しません。

もう一つの方法として、夫Aが住宅ローンを借り換えることによっても、妻Bが連帯保証人から降りることは可能です。元のローンは全額が返済されたことになりますから、妻Bは、借り換え後のローンを連帯保証しない限り、元のローンの連帯保証からは外れます。

しかしこれらの方法は、新たな連帯保証人となるに適格な人物が夫の側の親族等に無い場合は、交替できませんし、ローンを借り換えるにしても、夫が改めてローン審査に合格しなければ不可能です。


【連帯保証人を降りることができないときは】

新たな連帯保証人に適格な人物が居ないとき、また借り換えもできないときは、妻や妻の親族が連帯保証人から降りるのは困難です。その場合には、妻がローンを肩代わりしなければならなくリスクは、どうしても残ってしまいます。そうすると、肩代わりが現実のものとなったときの備えが必要になります。つまり、肩代わりしたお金を、誰かから取り戻すための備えです。
その備えにどのような策を取ることができるかはケースバイケースですが、例えば夫の親族に連帯保証してもらう(妻の夫に対する求償債権の連帯保証)ことなどが考えられます。金融機関が不適格と判断した人物であっても、それは金融機関の判断です。妻側として、「何も無いよりはまし」と考えるなら、夫の両親等を妻に対する連帯保証人とすることは差し支えありません。

どうしても有効な備えが無い、一応の備えをしたけれども肩代わり分を回収できないことも有り得ますが、もうそれは、止むを得ません。妻Bは、いったん夫の連帯保証人になった以上、そのリスクは離婚後も引き受けざるを得ないのです。


連帯保証の問題は、概ね以上のとおりです。次回、ローン負担付きのマイホームを財産分与対象財産とする場合の問題について、考えてみます。

住宅ローンを使って、親の家をリフォームしたい

【設問】
Aさんは、父Bさんが所有する家をリフォームして同居したいと考えました。リフォーム資金は、銀行の住宅ローン(リフォームローン)を利用します。しかし、親名義の建物を子供が増築したときには贈与税がかかると聞き、心配です。また、銀行によっては、ローン利用者本人名義の家でないと、住宅ローンが利用できないそうです。どうすればよいでしょうか?

【考えられる問題点】

親世代の住宅ストックを有効活用しようとするとき、本件のAさんのような問題がしばしば起こります。ここででは、次の問題点が考えられます。

1.贈与課税
古家をリフォームをすれば、その建物の価値は増加します。その増価による財産的利益を受けるのは、建物所有者であるBさんです。Aさんがリフォーム資金を出損することによりBさんが財産的利益を受けるということになりますから、そこに贈与の課税関係が認識されます。

2.本人名義の家でないと、住宅ローンを利用できない
これについては、必ずしも本人名義でなくとも、一定範囲の親族名義の家であっても住宅ローンの利用を認める金融機関もありますから、さほど大きな問題ではないかもしれません。しかし、選択の幅が狭まる不利はあるでしょう。

3.将来の相続発生時における特別受益、寄与分等
リフォーム時点では認識されることの少ない問題ですが、Aさん又はBさんに相続が発生した場合の特別受益もしくは寄与分等の問題として、将来における親族間紛争の原因となる恐れがあります。
例えばAさんが死亡したとき、Aさんの配偶者・子らは、Bさん名義の家を相続することがありません。

【一般的な対応とその問題点】

本件のような問題があるとき、一般には贈与課税を免れることに主眼において、「代物弁済」を原因としてBさんからAさんへ所有権の一部を移転することが多いようです。(なぜ「代物弁済」となるかにつきいては、過去記事をご参照ください。)そうすることで贈与課税を免れることはできますが、しかしこれには、次の問題があります。

1.リフォーム工事が完了した後でないと、所有権一部移転ができない。
代物弁済の基となる償金債権(AさんがBさんから建物増価分を弁償してもらう権利)は、リフォーム工事が完了し、建物の増価が現実のものとなったときに初めて発生します。したがって、工事着手前、ひいては住宅ローン申し込み前の「代物弁済」は、有り得ません。

2.課税価額の増加、軽減特例不適用による登録免許税負担の増加
増築によって建物床面積が増えた場合に限られますが、登録免許税の課税価額は、工事完了後の方が多くなります。つまり、工事完了前後で同じ割合の所有権を移転する場合、工事完了後の方が登録免許税の額は増えます。
また、個人が居住する住宅を取得する場合の登録免許税には軽減特例が設けられていますが、その特例が適用されるのは「売買」及び「競売」による取得に限られ、「代物弁済」による取得の場合には軽減を受けることができません(租税特別措置法73条)。

3.「代物弁済」という言葉の持つ響き
一般に代物弁済は、金銭債務を負担する者が金銭では支払うことができない場合に用いられる、債務履行の手法です。平たく言うと、「お金が無いから、代わりに物で支払う。」という場合です。したがって、事情を知らない他人に対しては、あまり良くない印象を与えることがあります。

【売買による所有権一部移転】
本件におけるAさんの問題、それから、それに対して一般的に採られることが多い「代物弁済による所有権一部移転」の問題をクリアする方法として、「売買」による所有権一部移転が考えられます。

1.売買契約
Bさんを売主、Aさんを買主として、Bさん所有建物の所有権の一部を売買する契約を締結します。売買代金額は、リフォームによる建物増価分(リフォーム資金額になると思われますが、正確なところは税理士等に確認してください。)と同額にします。売買代金支払い時期はリフォーム工事完了後とし、所有権移転時期は工事着手前の時期とします。これにより、工事完了を待つことなく、所有権の一部がAさんに移転します。

2.建物変更(リフォーム)承諾、償金額の定め等の合意
Aさんは、リフォーム工事の内容等について、Bさんの承諾を得ます。AさんとBさんとの合意により、リフォームにより発生するBさんのAさんに対する償金の額を定めます。このとき、前記売買代金額と償金額とが同じになるように調整します。これらは、売買契約と同時に行います。

3.相殺予約契約
1の売買代金と2の償金とをリフォーム工事が完了した時点で相殺することを、予め約束しておきます。この予約も、売買契約及び償金額合意と同時に行います。

【売買による所有権一部移転のメリット】
売買により所有権の一部を移転した場合には、代物弁済による場合と同様の目的を達することができるのに加えて、代物弁済によった場合に生ずる弊害を減殺することができます。

1.工事完了前に所有権を移転できる。
「代金後払い」の売買契約とすることにより、工事完了前に所有権一部移転を終えることができます。

2.登録免許税の負担を軽減できる。
「売買」による所有権移転登記ですから、住宅用家屋の証明を取得したうえで、登録免許税軽減特例の適用を受けることができます(ただし、建物自体が軽減特例の適用対象にならない場合は、このメリットはありません。)。また、増床前の建物価格が課税価格となるため、増床後に所有権移転登記するよりも負担は減ります。

3.登記簿には「代物弁済」と記載されない。
登記簿に記載される登記原因は、「売買」となります。

以上の通り、代物弁済よりも売買の方が優れていると思われますが、いくつか気を付けるべきこともあります。リフォーム工事契約や住宅ローンの申し込みをする前に、司法書士、税理士等の専門家にご相談ください。

住宅ローン特別控除の適用について、http://morishige.doorblog.jp/archives/6579642.html

隠れた借地権

最判昭和30年9月23日民集第9巻10号1350頁
「一筆の土地全部の賃借人が地上に登記のある建物を所有するにいたつたときは、その後右土地が分筆され、建物の存在しない部分につき所有権を取得した者がある場合においても、これに対し賃借権を対抗することができる。」

今日は、上記判例を題材にして、土地取引に際して調査すべき不動産登記記録の範囲について考えてみます。

【設例】
1.Xは、AからA所有の甲土地一筆を賃借し、甲土地の一隅に建物を建築して、同建物について表題登記を経由した。
2.甲土地に隣接する狭小な乙土地を購入したBは、Aに対して、甲土地の一部を売却してくれるように依頼した。
3.Aは、Bの依頼に応じて、甲土地の一部(空き地状になっていた部分)を丙土地として分筆し、丙土地をBに売却した。
4.Bは、乙土地と丙土地とを合筆のうえ、Yに売却した。
5.Yは、購入土地の外周を囲うブロック塀の工事を始めたところ、Xから、賃借権(借地権)の侵害を理由に、丙土地分筆前の旧甲土地内の工事につき、その差止を請求された。

【問】
Yは、Xの請求に応じなければならないか?

この回答の鍵は、Xの借地権及びその対抗力の及ぶ範囲です。
Xは、旧甲土地一筆全部を賃借(一筆の土地の一部の賃貸借の場合は、賃貸借契約において、その範囲が特定されていなければならない。)しており、丙土地部分についての借地契約が合意解除されたなどの事情がない限り、丙土地を含む旧甲土地全部について賃借権を有していることに変わりありません。
またXは、旧甲土地上建物の登記を経由することにより、その賃借権の対抗力を具備しています。上記判例によれば、丙土地が分筆された後にあっても、丙土地を含む旧甲土地全部について、その対抗力が失われることはありません。つまり、Xは、乙地に合筆された旧丙土地部分につき、賃借権を有することをYに対抗することができます。
したがって、Yは、旧丙土地部分に関するXの賃借権が消滅した事実を主張・立証できないかぎり、Xの請求に応じざるを得ません。

このことから解るのが、分合筆された土地には、隠れた賃借権(借地権)が存在するケースがあるということです。
土地取引に際しては、対象土地登記記録の表題部『原因及びその日付』欄にも注意を払い、事情によっては、分合筆相手土地及び同地上建物の登記記録をも調査すべきでしょう。そして隠れた賃借権が存在する可能性がうかがわれる場合には、その消滅を確認しておかなければ、設問のYのような目に遭う恐れがあります。

高齢者の再婚と遺産相続問題(2)

再婚相手による遺産相続への抵抗感を低減するというのは、子供たちが取得する財産を多くするということに他なりません。その具体的方法には、どのようなものがあるでしょうか。

1.生前贈与
贈与された高齢者の財産は、その時点で受贈者の固有財産となります。
とはいっても、相続人への贈与は、相続開始1年前にされたか否を問わず、遺留分減殺請求の対象にされます。また、相続時精算課税制度を活用可能な場合の特別控除分を除けば、贈与税負担を避けることができません。

2.遺言
多くの遺産を子供に相続させる遺言をするのも、一つの方法です。
しかし、やはり遺留分減殺請求を受ける可能性が残りますし、遺言の撤回が可能であることを考えれば、子供にとってはあまり安心できる方法ではないでしょう。

3.遺留分放棄
相続開始前に再婚相手が遺留分を放棄すると、遺留分減殺請求の可能性はなくなります。
しかし、相続開始前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可審判を受けることを要します。再婚相手が放棄意志を有するというだけでは、その許可を得るのが困難ではなかろうかと思われます。

4.死因贈与
死因贈与とは、贈与者の死亡時に効力を生じる贈与です。受贈者との契約である点で、一方的な行為(単独行為)である遺言とは異なります。不動産の死因贈与については、生前に所有権移転仮登記をしておくことで、第三者へ処分されることを防ぐこともできます。
しかしこれもやはり、贈与者の最終意思(遺言等)による撤回が原則的に可能とされています。

その他に生命保険、信託等を利用した方法も考えられますが、それらを含めて、いずれの方法にも欠点があります。財産の自由処分権と相続権(遺留分権)とは法律上の権利ですから、子供たちの感情に優先して、法がそれに保護を与えるのは止むを得ないところです。

だからといって何もしないままに、「どうしようもない。」と諦めるのが望ましいとも思えません。財産を巡る家族間の争いは、法律の問題、お金の問題というよりもむしろ、心の問題です。満点ではなくても、いくつかの方法を組み合わせて採用するなどして、「私(たち)は、あなた(たち)の気持も大切に考えているよ。」というメッセージを発することが大切です。

「私の結婚を邪魔する権利は、子供には無い。」
「子供と再婚相手が遺産で揉めようとも、どうせ私が死んだ後のこと。」
そういう豪快な人生観、相続観もアリだとは思います。
しかしそれでも、死後の名誉を重んじるならば、何かしらの対処をする必要があるのではないでしょうか。

高齢者の再婚と遺産相続問題(1)

数日前、あるご高齢のスペイン侯爵夫人が公務員男性と再婚するにあたって、全ての財産を子供たちに譲渡したという報道を見かけました。財産目当ての結婚ではないことを、示すためだそうです。侯爵夫人の子供たちが再婚に反対していたとのことも、あわせて報じられていました。

高齢者の再婚について、その子供が反対する例は、日本でも珍しくありません。その反対する理由の一つに、財産を再婚相手に横取りされるような感覚への抵抗感を挙げることができるでしょう。
高齢者と自分、あるいは自分の親でもある前婚者を含む家族による財産形成史の中に、突如現れる再婚相手。再婚相手は、財産形成に何の寄与をしていなくても、高齢者が死亡したときには法定相続分の財産を取得することができます。子供や親族が釈然としない気持ちを抱くのには、無理からぬところがあるのではないでしょうか。
さらに、再婚相手が死亡したときには、その相続人が相続する結果、「家」の財産が外部の者に取得されてしまうこととなり、それについても抵抗感を抱くことでしょう。

とはいえ、異性のパートナーの代わりを子供が務めることはできません。高齢者といえども、結婚の自由は、侵されべからざる権利です。「財産目当て」という誤解を避け、再婚相手と子供との関係を円満に保つためには、どのような方法があるのでしょうか。

次回に続きます。

借地借家法第10条は、もはや時代に適合しない

借地借家法10条は、民法605条が規定する不動産賃貸借の対効要件の特則を定める。すなわち、第1項は借地上建物の登記により、第2項は滅失建物等を特定する掲示により、借地権に対効力を付与する。

権利の得喪が一定の手続きを経たときに与えられる対効力の源泉は、公示にある。「誰それが、これこれの権利を取得(喪失)した」ということをいち早く広く世間に公開することにより、その権利について取引関係に入る者の不測の損害を防止する一方、公開情報を知ろうとしなかった者の異議申し立てを遮断するのである。必要十分な情報が公示されてこそ、それに対効力を付与する意義があり、取引の動的・静的安全が保たれる。

ところが、借地上建物の登記によって公示されるのは、建物所有者が土地について何かしらの権利を恐らく持っているのだろう、ということだけである。建物所有者と土地所有者とが同一であれば恐らく土地所有権に基づく使用権であろうし、非同一であれば使用借権か賃借権か地上権か無権原かのいずれかであろうということだけが、判明する。使用貸借は親族等特殊関係者間で行われるのが通常であり、無権限の土地使用が捨て置かれるのは稀であることを考えれば、建物所有者と土地所有者とが赤の他人の場合には、賃借権か地上権の借地権が存在する蓋然性が高いといえる。

借地権といえば一種(今でいう普通借地権)しか存在しなかった時代には、それでも十分であったかもしれない。また、借借法10条1項の前身である建物保護法が制定された経緯からすれば、建物登記による対効力を認めたことにも十分な合理性がある。

しかし、今やどうであろうか。借地権は多様化し、普通借地権のみならず、自己借地権、一般定期借地権、事業用定期借地権、事業用借地権、建物譲渡特約付借地権、一時使用目的借地権の多種にわたる。また、かつてはあまり想定されなかったであろう、借地権設定者が転借地権者となるケースも見られる。定期借地権か普通借地権かの相違だけでも、当事者および第三者の利害得喪は全く異なるはずである。しかし建物の登記からは、借地権の種類はもちろんのこと、存続期間その他の内容が全く不明である。当事者にあたって調査して、初めて判明する。これでは建物登記は、借地権を公示する機能を著しく欠いていると言わざるを得ない。
また、定期借地権を登記することは地主にも利益があり、定期借地権の一般化により、借地権登記に対する地主の抵抗感も徐々に薄れつつある。

土地利用が多様化した現代に適合しない借地借家法第10条は早晩廃止して、借地権登記に一本化すべきである。一筆の土地の一部への借地権登記を認めない登記実務も改める必要があろう。一本化が無理であるとしても、少なくとも定期借地権と普通借地権の公示方法に差異を設けるべきである。

公示機能が全く不十分でありながら建物登記による借地権の対効力が認められているがゆえに、積極的に借地権登記をしようという意欲が失われるのである。中途半端な現行制度は、不動産取引に混乱を招いている。

借地権登記が常に必要であるとされれば、建物滅失期間中に掲示を窃取されて借地権を失うという不条理も起こらない。

建物譲渡特約付借地権の期日到来前の建物譲渡による所有権移転登記

建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条1項)が設定された場合、通常、借地上建物に借地権設定者を権利者とする所有権仮登記がなされる。建物譲渡特約に基づく借地権設定者の条件付所有権または所有権移転請求権を、保全するためである。借地権設定後30年以上で特約に定めた期間が経過した後に、特約に従って借地権設定者が建物所有権を取得した暁には、その仮登記の本登記をすることとなる。
ところで、借地権設定から30年以上が経過しないうちに借地権設定者へ建物が譲渡された場合、その所有権移転登記は、いかなる方法によるべきであろうか。つまり、特約に基づき取得した場合と同様に、仮登記の本登記によることができるか否か。

消極に解すべきである。

借地借家法24条1項が定める建物譲渡特約の有効要件は強行規定であり、当事者が任意に建物譲渡の日を借地権設定後30年未満に短縮することは許されない(同項中に「第9条の規定にかかわらず」とあることから、それは明らかである。)。したがって、借地権設定後30年を経過する前に借地権設定者が建物を取得する場合、たとえそれが借地権者(建物所有者)との合意によるものであっても、それは建物譲渡特約とは別個の原因契約に基づくものである。(建物譲渡特約は、履行不能または合意解除により失効する。)
仮登記の本登記は、仮登記原因と本登記原因とが同一の基礎を有していなければならない。その基礎が異なる場合には、仮登記の流用であり、本登記は無効と解される。
したがって、30年が経過する前に借地権設定者が建物所有権を取得した場合には、建物譲渡特約のためになされた仮登記の本登記によらず、通常の所有権移転登記をすべきである。(仮登記は、抹消する。)

なお、建物譲渡の日を例えば「借地権設定後40年」と定めた建物譲渡特約がなされている場合に、「借地権設定後30年」と変更する合意は、有効に為し得るものと解される。そうすると、30年以上40年未満経過後に建物を譲渡する場合には、建物譲渡特約に基づく仮登記の本登記で差し支えない。

建物譲渡特約付借地権設定契約によらない建物譲渡予約の効力

借地権は借地上建物所有権の従たる権利とされ(通説、最判昭和40年5月4日民集第19巻4号811頁等)、「賃借地上にある建物の所有権が譲渡された場合には、特別の事情のないかぎり、それと同時にその敷地の賃借権も譲渡されたものと推定するのが相当である」(最判昭和47年3月9日民集第26巻2号213頁)とされる。したがって借地上建物所有権の取得者が借地権設定者である場合、基本的には底地所有権と借地権とが同一人に帰することとなり、底地所有権または建物所有権に担保権が設定されているなどの場合を除いて、借地権は混同法理により消滅する。

しかしここで留意すべきは、借地借家法9条の趣旨に照らして、前記混同法理により借地権が消滅するのは、借地権設定者による建物所有権の取得が予定外のこととして行われた場合に限ると解されることである(ここでいう「予定外」とは、借地権設定時において、将来の建物譲渡が法的拘束力をもって合意されていないことを意味する。)。このことは、建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条1項)が創設されたことによって、なお一層鮮明となった。

借地権を設定する場合において、借地借家法第9条の規定にかかわらず、借地権を消滅させるため、その設定後30年以上を経過した日に借地権の目的である土地の上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨を定めることができる(借地借家法24条1項)。この特約を付した借地権設定契約に基づく借地権が建物譲渡特約付借地権といわれるものであり、特約の効果として、借地権設定者が建物所有権を取得したときに借地権が消滅する。
建物譲渡特約付借地権の特約の有効要件を今一度整理すると、(1)借地権設定と同時に、特約すること、(2)特約は、借地権の消滅を目的とすること、(3)特約の内容は、借地権設定後30年以上を経過した日に、借地上建物を相当の対価で借地権設定者に譲渡するものであること、の三点である。このいずれかが欠けるとき、建物譲渡特約は無効と解せられる。

建物譲渡特約の『無効』の意義については、(ア)特約全体が無効である、(イ)特約のうち建物譲渡に関する部分に限り有効である、という二説が考えられる。
(ア)説によれば、建物譲渡特約の内容が期限付所有権移転である場合には期限が到来しても建物所有権が借地権設定者に移転せず、または所有権移転予約である場合には予約完結権を行使してもその効力が生ぜず、もちろん借地権は消滅しない。この場合、借地上建物に所有権移転(請求権)仮登記がなされていても、その仮登記も無効である。借地権設定者はその本登記請求をすることができず、仮登記に遅れて所有権登記名義を取得した者は、本登記承諾義務を負わないのはもちろん、仮登記の抹消を請求することができる。
(イ)説によれば、建物所有権は移転するものの、借地権消滅の効力が生じない。この場合、建物所有権を取得した借地権設定者は、借地権者から土地を転借または賃借する関係が成立するものと解される。
いずれの説が妥当であるかについては、「借地借家法第9条の規定にかかわらず」とあることからすれば建物譲渡まで無効と解する必要性は少ないようにも思われるが、にわかには優劣を付け難い。ただ、(ア)(イ)いずれの説を採るにせよ、借地権消滅の効果が生じないことには変わりない。

以上のことから、前記の三要件を充たした建物譲渡特約付借地権設定契約によらないで借地権設定者と借地権者との間で将来の建物譲渡を合意し、その合意に基づき建物が譲渡されても、借地権設定者が期待する借地権消滅の効果は生じないと解される。

では、借地権設定の時から相当の期間を経た後に、予定外のこととして将来の建物譲渡が合意された場合は、どうであろうか。借地借家法24条及び9条の規制が働く時的範囲の問題である。当事者の自由意思に基づく借地契約の合意解約は有効に成し得るのであるから、直ちに無効であるとまで解することはできない。とはいっても、借地契約の期限付合意解約の有効性の問題もあり、合意が無効と解されるリスクは十分にある。

建物のリフォームと所有権の帰属(2)

前回の続きです。
問題4.Aさんが建物の所有権を一部取得する(Aさんの名義を入れる)には、どのような方法があるでしょうか?

(1)代物弁済
Aさんの父親に対する請求権は金銭債権ですが、両者が合意すれば、建物所有権を移転することで金銭の支払いに代えることができます(民法第482条)。つまり、リフォーム後の建物の所有権の内、工事費用に相当する持分を父親からAさんへ移転します。代物弁済の目的物は、建物に限られず、建物敷地である土地所有権を対象とすることも可能です。
この場合の登記原因は「代物弁済」、登記原因日付はAさんと父親との間で代物弁済の合意が成立した日となります。通常は、この代物弁済を原因とする所有権一部移転が、最もシンプルであり、実体にも一致していると言えます。

(2)売買
建物(及び土地)所有権の一部をAさんが父親から購入のうえ、その売買代金債務を償金・不当利得返還請求権と相殺します。
この場合の登記原因は「売買」、登記原因日付は売買契約において定めた所有権移転日となります。
若干複雑な処理が必要になりますが、登記記録に「代物弁済」という文言が記載されるのを嫌うときは、こちらの方がベターかも知れません。
代物弁済による所有権移転登記がリフォーム後でなければ出来ないのに対して、売買による場合は、リフォーム前にすることも可能です。抵当権設定後の所有名義変更は、対ローン銀行との関係で問題となることがあります。

(3)真正な登記名義の回復
「真正な登記名義の回復」とは、実体と異なる不真正な登記名義が存在するとき、それを是正するための特殊な登記です。この登記が許されるのは、本来的な登記の方法によるのでは、現在の所有者に登記名義を変更することができない特別な事情がある場合に限られます。その特別な事情が無い本件のようなケースでは、「真正な登記名義の回復」による所有権移転登記は、極めて不適切であると言わざるを得ません。
(かつて、登記原因証書の添付が任意であった旧不動産登記法の下では、安直な登記名義変更のための方便に濫用されることも少なくなかったようですが。)

(4)贈与
全く信じ難いことですが、説例と同様のケースで、税理士や司法書士から「贈与」で持分移転しましょうと勧められた、という話を聞いたことがあります。贈与を勧める理由は定かでありませんが、一方はリフォーム費用を負担し、他方は不動産持分を贈与するのだから、「お互い様」じゃないかという考えに基づくものなのでしょうか。しかし、その「お互い様」は単に感情に関する話であって、贈与が債務消滅原因になることはあり得ず(代物弁済は債務消滅原因になる)、贈与により不動産持分を譲渡したところで、償金・不当利得返還請求権は消滅しません。課税関係についても、恐らく、双方に贈与課税がなされることになるでしょう。
したがって、贈与を原因とすることは、選択肢にありません。
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